研究概要 |
近年当研究室では、虚血に特に弱い脳領域である海馬と大脳皮質に、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)の活性化によるコリン作動性神経性血管拡張機構が存在する事実を証明した。そこで本研究は、nAChRによる脳の微小血管の制御が虚血性神経細胞死の制御につながるかどうかを明らかにすることを目的とした。本年度は、nAChR刺激薬のニコチンの静脈内投与が脳虚血の際の海馬および大脳皮質の局所血流と遅発性神経細胞死に及ぼす影響を調べた。 ハロセン麻酔下のラットを用い、海馬および大脳皮質の局所血流をレーザードップラー血流計を用いて測定した。海馬では30〜100μg/kg、大脳皮質では1O〜100μg/kgのニコチンで、血圧とは無関係の局所血流増加が見られた。次に脳へ血液を供給する4つの主動脈を2分毎に断続的に結紮する方法により一過性虚血を行い、虚血中および再灌流時の局所血流の変化を調べ、一方3〜7日後に脳を取り出して海馬CA1と頭頂葉の組織学的検討を行った。Total6分間の断続的4動脈結紮により、結紮中、大脳皮質および海馬の局所血流はいずれも結紮前のcontro1血流の約15%にまで低下し、4〜7日後、海馬CA1では約75%、頭頂葉皮質1〜IV層では約10%の正常ニューロンが失われた。血圧とは無関係の血流増加を引き起こす量のニコチンを投与してから結紮を行うと、結紮中の血流レベルがcontrol血流の20%以上に維持され、海馬での遅発性神経細胞死は全ニューロン数の約半数に減少し、頭頂葉皮質での遅発性神経細胞死は防がれた。 以上の事実から、nAChRの活性化によって引き起こされる脳微小血管の拡張は、虚血の程度を軽くし,海馬や大脳皮質のニューロン保護につながることを示す。
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