研究概要 |
近年、前脳基底部のマイネルト核と中隔に起始し大脳皮質と海馬に投射するコリン作動性神経を活性化すると、大脳皮質や海馬で代謝性の血管拡張とは無関係の神経性血管拡張反応が、ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)を介して起こることが示された。 そこで本研究では第一に海馬に着目し、ラットにニコチンをi.v.投与してnAChRを刺激した際の海馬局所血流(Hpc-BF)の増加が、一過性虚血による海馬ニューロンの遅発性神経細胞死を改善するかどうかを調べた。Hpc-BFはレーザードップラー血流計を用いて測定した。トータル6分間の両側総頸と椎骨の4動脈の断続的(2分毎)結紮中、Hpc-BFは結紮前の約16%に減少し、結紮の5-7日後に海馬CA1ニューロンの約70%に遅発性神経細胞死が見られた。Hpc-BFはニコチン(30-100μg/kg,i.v.)により平均血圧とは無関係に用量依存性に増加した。ニコチン(30-100μg/kg)を結紮の5分前に投与すると、結紮によるHpc-BF低下は、わずかに、しかし有意に減弱した。ニコチン前処理した場合、一過性虚血後の海馬CA1ニューロンの遅発性神経細胞死は全ニューロンの約50%に減弱した。以上の結果は、nAChR刺激によるHpc-BFの増加は虚血による海馬ニューロンの遅発性死を防ぐことを示す。この成績は国際誌に受理され、掲載号の表紙に選ばれた(論文1)。 第二に大脳皮質に着目し、マイネルト核電気刺激による大脳皮質血流の増加が、大脳皮質ニューロンの虚血性障害を改善するかどうか調べた。トータル30分間の一側総頸動脈の断続的(5秒毎)結紮中、大脳皮質血流は結紮前の約70%に低下し、同側大脳皮質に軽度な選択的神経細胞壊死が見られた。同側マイネルト核を電気刺激しながら結紮した群では,結紮中でも大脳皮質血流が安静時血流以上に維持され、選択的神経細胞壊死が防がれた。 以上の成績は、nAChR agonist投与や前脳基底部電気刺激によるnAChR活性化は、海馬や大脳皮質で神経性血管拡張反応を起こし、脳血管障害による虚血性神経細胞死を防ぐ可能性を示唆する。
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