本研究の最終目的は、糖尿病性腎症の進行と血管作動物質としての一酸化窒素や活性酸素産生との関連について言及することであるが、II型糖尿病モデルラットであるOLETFラットの特徴の一つとして、非常に緩徐な糖尿病性腎症の発症があり、35週以降に腎症が進行してくることが知られている。そのために研究期間が長期にわたることが予想された。そこで最近の研究により、糖尿病性の動脈硬化症の発症、進展に酸化ストレスが関っていることが明らかになってきていること、糖尿病性腎症の進行にも糖尿病性の動脈硬化症が深く関っていること、インスリン抵抗性改善薬であり、抗酸化作用を持つことも指摘されているトログリタゾン(TGZ)の提供をうけたことなどより、まず初期糖尿病段階に焦点をしぼり、この段階において、酸化ストレスの増加に伴う動脈硬化症変化があるかどうか、そして、TGZの投与により酸化ストレスを抑制することができるか検討してみた。OLETFラットをTGZ投与群と非投与群に分け、投与群は5週令よりTGZを15週間投与した。またコントロールとしてLETOラットを用いた。20週令において、酸化ストレスの指標として血清中の過酸化脂質濃度を、動脈硬化性変化の指標として大動脈壁の弾性と大動脈壁中のコラーゲン量を測定した。過酸化脂質濃度は、非投与群OLETFラットにおいて著明に上昇しておりTGZの投与により完全に抑制された。一方、大動脈壁弾性は非投与群OLETFラットで低下しており、大動脈中のコラーゲン量は、有意に増加していた。そしてTGZの投与により、そのいずれもがLETOラットのレベルに改善された。 これらのことより、酸化ストレスは、OLETFラットにおいて、その初期糖尿病段階より増加しており、TGZの抗酸化作用により、糖尿病性の動脈硬化性病変の発症進展を防ぐ可能性が示唆された。今後、遅れて発症してくる糖尿病性腎症の進行との関係についても現在検討中であり、一酸化窒素産生との関連についても検討していく予定である。
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