本研究では心筋細胞においてA-kinase anchoring protein 100(AKAP100)がA-キナーゼを筋小胞体プロテオリピッドであるホスホランバンもしくは筋小胞体上に存在する他の基質タンパク質の近傍にアンカーし、βアドレナリン刺激による筋小胞体タンパク質のリン酸化を促進するという仮説を立て、これを検証する目的で心筋細胞に対してAKAP100過剰発現を行ない、これらの細胞におけるβアドレナリン刺激によるA-キナーゼを介した筋小胞体タンパク質リン酸化および筋収縮増強作用を検討した。昨年度作成した心筋特異的AKAP100過剰発現トランスジェニックマウスのランゲンドルフ潅流心臓標本におけるイソプロテレノール心筋陽性変弛緩作用の用量作用曲線は野生型マウス心筋と比較して低用量側にシフトしていた。このAKAP100過剰発現による用量作用曲線シフトの機序を検討する目的で、リン酸化ホスホランバン特異的な抗体でホスホランバンリン酸化状態の定量を行ったがトランスジェニックマウスと野生型マウスの間で差は認められなかった。また、心筋細胞を^<32>Pで標識し、イソプロテレノール刺激を施したところ、その他の心筋タンパク質のリン酸化状態にもトランスジェニックマウスと野生型マウスの間で差は見られなかった。これらのことから、AKAP100過剰発現マウスで認められたイソプロテレノール心筋陽性変弛緩作用の促進はタンパク質リン酸化促進以外の機序によるものと考えられるが、心筋弛緩を促進する点でAKAPは心筋病態治療ターゲットとなる可能性が示された。
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