分裂酵母のspt1^+遺伝子は外界ストレスに応答した増殖制御に重要な役割を果たす。今年度はSpt1と強い遺伝学相互作用が見いだされたEso1の機能解析を行った。 細胞周期においてS期に複製された姉妹染色分体はM期中期まで接着したまま保持される。この機構は未成熟な染色体分配を抑制してゲノムの安定性を保障するとともに、DNA損傷の修復や減数分裂期の遺伝子組み換えにも重要な役割を果たしている。新規細胞周期変異株として単離したeso1変異株はS期で姉妹染色分体を接着することができず、その結果M期で核の不均等分配や分断などの異常を生じて致死となる。Eso1の機能はS期における姉妹染色分体接着の成立には必須であるがG2-M期における接着の維持には必要でないことから、接着を直接つかさどる因子ではなく、その機能を制御する因子であると考えられる。興味深いことに、eso1^+遺伝子はDNAポリメラーゼηと出芽酵母Eco1/Ctf7の分裂酵母ホモログが融合したタンパク質をコードしていた。姉妹染色分体接着の制御にはEco1/Ctf7相同領域が必要かつ十分な機能を有しており、eso1変異株における点突然変異もこの領域内に生じていた。一方、DNAポリメラーゼη相同領域を欠失させた株は姉妹染色分体接着は正常であるにも関わらず、紫外線に対して強い感受性を示すようになった。今回得られた解析結果より、Eso1はおそらくDNA複製複合体の一員として機能しており、新たに合成された姉妹染色体をその場で直ちに繋ぎとめると同時に、鋳型DNA上の障害によって複製フォークの進行が阻害された時にはDNAポリメラーゼη活性(鋳型DNA上のピリミジン二量体を乗り越えて複製を進める活性)を用いて傷害をバイパスさせるという、S期における極めて重要な二役を担う因子であると考えられる。(投稿中)
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