まず、Sphingomonas paucimobilis由来の脂肪酸α水酸化酵素(以下、SPα)の発現系を確立し、純粋な組換え酵素を得、その性質を検討した(論文発表)。次に、既知のP450でよく保存されており、酸素の活性化に重要だと考えられるThr残基(helix-Iに存在するが、本酵素では見あたらない)に相当する残基を特定するため、SPαのアミノ酸配列からhelix-Iに相当する部分についてLys変異体の作成を試みた。しかし、作成した変異体の多くは発現量が極めて悪く、解析に十分な量の酵素を得るのが困難であった。ところが最近、私はBacillus subtilisのybdT遺伝子がSPαのホモローグをコードしており、この蛋白質がSPαと同様、少量の過酸化水素を利用して脂肪酸基質の水酸化する(脂肪酸のα位のみならずβ位も水酸化する)ことを見いだした(論文発表)。都合の良いことに、この酵素蛋白(以下、BSβ)は、SPαと同様の発現系を用いた時、SPαよりもおおよそ一桁高い発現量を示した。又、BSβのhelix-Iに相当する部分のアミノ酸配列が、SPαのものと極めて高い相同性を示した事から、反応機構上SPαとの類似性が予想されたので、BSβに部位特異的変異導入を行うことを考え、更に発現効率の良い発現系と回収効率の良い精製法を確立した。即ちT5プロモーターの下流に、His tag、スロンビン切断部位及びBSβの融合蛋白をコードする様に発現プラスミドを構築し、大腸菌に導入後、δ-ALA存在下に培養し、アフィニティーカラムで酵素をほぼ純粋にまで精製した。このシステムを用いて、BSβのhelix-I相当部位にLys変異を導入すると、Pro243をLysに改変した変異体がN配位のスペクトルを示した。また、242及び244番目のLys変異体はN配位を示さなかった。この事は、このPro残基が所謂保存性Thr残基の位置に相当する部位にある事を示唆する。この残基の反応機構上の役割については、現在検討中である。
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