脂肪酸α水酸化酵素の特異な反応機構を解析する為、Bacillus subtilisのybdT遺伝子産物(P450_<BSβ>)を用い、既知のP450とのアライメントから、遠位ヘリックスと推定される部位についてLys変異体を作成した。それらの分光学的解析から、P450_<BSβ>ではPro243が、通常のP450で良く保存されており、機能的に重要なThr残基の代わりをしている事が示唆された。また、P450_<BSβ>のArg242をAlaに置換すると、脂肪酸基質に対する親和性が低下する事から、Arg242の側鎖(おそらくそのグアニジノ基)が基質のカルボキシル基との相互作用に関与すると考えられた。更に、Arg242を変異させる事によって、本酵素反応に必須な過酸化水素に対する親和性も劇的に低下した事から、Arg242は過酸化水素の本酵素への結合にも重要な役割を果たしていると考えられた。本酵素の最も大きな特徴は、少量の過酸化水素を使って脂肪酸のカルボキシル基近くの炭素を水酸化する事なのであるから、この意味でArg242は本酵素にとって、最も重要な残基のひとつである事がわかった(以上の知見については、現在論文投稿中である)。加えてArg242LysやArg242Ala変異体では、脂肪酸基質のα位やβ位のみならず、ω位炭素も攻撃された。特にAlaへの置換は基質上の攻撃部位を更に曖昧にする様で、ω位のみならず、(ω-1)やその他の位置も攻撃されたと考えられる生成物が見られた。即ち、これらの変異体では、基質が本来酵素に結合するべき向きとは逆さまに触媒ポケットに入る事ができる様になったのである。これらの事からも、Arg242が本酵素に特有な機能を付与する決定的な残基である事が示唆された。
|