まず、RBおよびp53遺伝子を中心とした細胞周期調節蛋白質の発現を、肺扁平上皮癌50症例について、免疫組織学的に検索した。pRBとp16蛋白の異常発現がそれぞれ16%、78%の症例で認められ、互いに逆相関の関係にあった。つまり、ほとんどの肺扁平上皮癌でRB pathwayの異常を有していることになる。一方、p53 pathwayでは、60%の症例ではp53の過剰発現がみとめられ、p53の分解中和に関与するp14ARF、MDM2の発現は約半数の症例でみとめられたが、p53の過剰発現との有意な相関はなかった。p14ARFの発現はp16の発現と有意に相関していた。すなわち、p14陰性例26例中、24例がp16も陰性となり、p14陽性24例中、9例がp16陽性であった。methylation specific polymerase chain reactionにより、p14ARF、p16のpromoter領域のmethylationを検索したところ、p14ARFのプロモーター領域のmethylationは認められず、免疫組織学的にp14陽性、p16陰性のうち検索可能な9例中、5例と高い頻度でp16遺伝子のプロモーターのmethylationが検出された。p14ARF遺伝子は、p16遺伝子の上流位置し、p16遺伝子と共通のexon2と、別個のプロモーターとexon1βを持ち、alternative splicingにより異なる蛋白質をコードしているが、p14の発現低下はpromotorのmethylationによらないこと、p14とp16の両方発現低下が約半数の症例でみられることから、これらは9p染色体のhomozygous deletionによって生じている可能性が考えられたが、現在のところそれを直接的に証明するに至らず、今後の検討課題である。
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