研究概要 |
従来、放射線はDNAに障害を与え、これによるDNA損傷と修復のエラーによる発癌機構が唱えられてきたが、近年になって種々のin vitro,in vivoの実験によりこの仮説に疑問が唱えられている。すなわち放射線照射は遺伝子、染色体の不安定性を誘導し、それに起因する遅延性突然変異が、がん遺伝子、がん抑制遺伝子におこり発癌に至る説が唱えられはじめている。そこで本研究では、遺伝的不安定性がその発生に関与していると想定される原爆被爆者肺癌について、BUB1ホモログの遺伝子異常を調べ、DNA ploidy、種々のがん遺伝子、がん抑制遺伝子の異常、マイクロサテライトマーカーを用いた遺伝子の欠失や複製異常との相関を明らかにし、放射性発癌のメカニズムを探ることを目的とした。症例は広島市で被爆した症例中、手術的に摘出された被爆者原発性肺癌70例を選択し、これらの症例の内、喫煙歴の明らかな40例についてまずp53がん抑制遺伝子異常の検索を行った。その結果約半数の症例に点突然変異を見出したが、被曝線量との明確な相関はなかった。また3p、9p、17p上に存在するマイクロサテライトマーカーを用いて遺伝子欠失の有無の検討を行ったが、欠失は存在するものの被曝線量との関連は見出せなかった。今後、BUB1ホモログの遺伝子異常を調べ、DNA ploidy、その他のがん遺伝子、がん抑制遺伝子の異常を検討し、放射線発がんのメカニズムを明らかにする予定である。
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