血管新生は前立腺がんの進展において重要な役割を有しており、各種血管新生因子の発現が腫瘍組織で高まっていることが報告されてきたが、その局在や機序については明らかになっていなかった。そこで、前立腺組織において血管新生因子の一つである血小板由来内皮細胞増殖因子(PD-ECGF)の局在を免疫組織科学的に検討した。また、その発現の強さと微小血管密度(MVD)を指標とした血管新生との相関を調べた。ヒト前立腺がん症例40例(根治的前立腺全摘除術症例31例、転移を有する症例の前立腺針生検標本9例)及び対照として良性前立腺過形成症例8例、明らかな前立腺疾患を認めない若年者剖検例5例の合計53例の前立腺を対象とした。PD-ECGFに対する1次抗体は、654-1、P-GF.44Cの2種類を用いた。MVDの計測は抗第VIII因子関連抗体を用いた免疫組織化学で血管内皮細胞を染色し行った。前立腺がん症例におけるPD-ECGFの発現は腫瘍細胞では認められず、腫瘍組織内の間質と腫瘍に隣接する非腫瘍性腺管上皮及びその周囲の間質細胞に認められた。また、前立腺肥大症例及び剖検例でも炎症を伴う腺管上皮とその周囲の間質細胞で発現がみられ、それ以外の部位では認められなかった。腫瘍間質におけるPD-ECGFの発現強度とMVDには有意な相関が認められた(r=0.636、p<0.001)。今まで各種腫瘍において、腫瘍細胞以外の間質細胞にもPD-ECGFの発現がみられたという報告はあるが、腫瘍細胞で発現を認めなかったという報告はなかった。今回の検討で、前立腺がんでは腫瘍内及び腫瘍周囲の非腫瘍腺管及び間質細胞がparacrine的にPD-ECGFを発現し、腫瘍の進展に係わる血管新生を促している可能性が示唆された。
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