本研究はヒト慢性肝疾患、特にウイルス性慢性肝炎が慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌へと進展する各段階におけるテロメラーゼ逆転写酵素およびその遺伝子発現の組織局在を明らかにし、種々の増殖因子発現との関連について検討することにより、テロメラーゼおよびテロメラーゼ逆転写酵素の慢性肝疾患進展ならびに肝発癌過程への関与の程度を解明することを最終目標としている。 計画の重要な柱は、テロメラーゼおよびテロメラーゼ逆転写酵素のRNAの組織局在とこれらRNAの発現量の定量評価である。組織中の標的RNAの分布を高感度にしかも特異性高く検出するための方法としてRNAプローブを用いたIn situハイブリダイゼーション法の採用を決めたが、まずはこの実験法が容易に繰り返し行えるように、手技の改良・簡易化を図った。RNAプローブによるIn situハイブリダイゼーションは感度、特異性の両面で、他の方法に比べ優れてはいるが、プローブ作成の煩雑さが、この手技の問題点であった。我々は、PCR反応とIn vitro逆転写反応の組み合わせからなる簡便なRNAプローブ作成法を確立し、病理学会総会においてこれを発表した(研究発表1)。 また、組織片中のRNA定量法としては、PCR反応による遺伝子量解析システムを採用することとしたが、果たして病理検体がこのシステムでの解析に馴染むものか否かを確認する目的で以下の検討を行った。1つには、病理検体として容易に入手可能なホルマリン固定・パラフィン包埋標本が、この手技によりテロメラーゼRNA定量に使用可能か検証した。結果として、定量可能であり、しかも癌組織において非癌組織より有意に高値を示し、信頼性は高いものと評価し得た(研究発表2)。次に、テロメラーゼ逆転写酵素のRNAは非常に低発現量であることが予想されるが、このような低発現遺伝子の定量解析に本法が応用可能か、低発現遺伝子の1つであるエンドセリン変換酵素RNAの定量解析を試みることによって検証した。この検討には病理解剖で得られた患者肝組織を用い、予想通りの低発現ではあったものの、ほとんどの検体で定量評価可能であった(研究発表3)。 以上の検討により確立された手技を用い、来年度は更なる組織化学的・分子生物学的検討を加えていきたい。
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