研究概要 |
炎症がヒト大腸腺腫細胞の悪性化進展の原因となることの証明 ヌードマウス皮下に5x10^6個移植しても増殖しない培養ヒト大腸腺腫細胞(FPCK-1-1)を用いた。炎症を誘発させる素材には、急性炎症を起こすためのゼラチンスポンジ(止血用滅菌スポンゼル10x5x3mm)を、慢性炎症を起こすために培養プラスチックプレート小片(Corning,10x5x1mm)を用いた。ゼラチンスポンジは、マウス皮下に挿入後スポンジ内に細胞を5x10^6個移植した。一方、培養条件下で1x10^5個の細胞を付着させたプラスチックプレートをマウス皮下に移入した。その結果、プラスチックプレートに付着させたFPCK-1-1細胞は、移植後100日を経過した頃より腫瘍が増殖し、組織学的に中分化型腺癌であることを確認した。マウスに増殖した腫瘍を無菌的に摘出した後、培養株を樹立して新たなヌードマウス皮下にプラスチックプレートを存在させずに5x10^6個移植しても腫瘍増殖した。さらにプラスチックプレートのみをヌードマウス皮下に挿入し、100日後に誘発される間質反応を皮下組織に残し、プラスチックプレートのみを除去した局所にFPCK-1-1細胞を移植しても腫瘍増殖した。しかし、ゼラチンスポンジとともに移植した細胞は増腫瘍性を示さなかった。以上の結果はLab.Invest.,80:1617-1628,2000に報告した。炎症由来のnitric oxide(NO)による大腸腺腫細胞の悪性化進展の証明 上述のモデルに誘導型nitric oxide synthase(iNOS)阻害剤であるアミノグアニジンを飲料水(1%)として与えると、腫瘍出現までの期間が有意に延長するだけでなく、腫瘍増殖も有意に抑制することを見出した。以上の成績より、1)大腸腺腫細胞の悪性化進展が、プラスチックプレート反応性に増生する間質反応の存在下で促進されること、2)この悪性化進展は、急性炎症では不十分であり慢性炎症を必要とすること、3)悪性化進展した細胞がin vivoで増殖すると中分化型腺癌を形成すること、4)炎症由来のNOが大腸腺腫細胞の悪性化進展に関わることなどが明らかになった。
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