研究代表者らは既に、神経ペプチド:α-melanocyte stimulating hormone(α-MSH)が、a)マウスの自然肺転移実験においてマウスメラノーマB16-BL6細胞の組織浸潤及びその肺転移を著明に抑制すること、b)in vitroにおいて上記癌細胞による基底膜浸潤を有意に阻害すること、c)その作用機序として主に癌細胞の運動性を抑制すること、さらにd)その運動性阻害には、α-MSH刺激で誘導される自己分泌型運動阻害因子の産生促進が強く関与していることなどを明らかとしてきた。本研究は、α-MSHによるB16-BL6メラノーマ細胞の運動、浸潤及び転移抑制機序の中核をなすと考えられる自己分泌型運動阻害因子の分離、精製及びその分子構造を明らかにするとともに、この分子の細胞骨格調節機構への影響、さらに他のメラノーマ細胞の運動性に及ぼす効果を検定することを目的とした。 1)高速液体クロマトグラフィーにより、マウスB16-BL6メラノーマ細胞より分泌されるα-MSH誘導性の自己分泌型運動阻害因子の分離を試みた結果、逆相(C18)カラムを用いたグラジエント溶出でアセトニトリル濃度:10〜12%付近に強い細胞運動阻害活性を有するピークが得られた。現在、この活性画分をさらに精製中である。 2)自己分泌型運動阻害因子の粗精製画分を用いて、B16-BL6細胞の細胞骨格系に対する影響を検討した結果、未処置群と比較して、アクチンストレスファイバーの著しい減少が観察された。同様の結果は、α-MSHあるいはforskolinを用いた場合にも認められた。 3)自己分泌型運動阻害因子の粗精製画分を用いて、他のメラノーマ細胞の運動性に及ぼす影響を検討した結果、マウスK1735-M2、ヒトA2058およびA375-SMの各メラノーマ細胞の運動性は抑制された。 今後、上記運動阻害因子の分子構造を明らかにし、この分子の細胞骨格調節機構に対する、より詳細な検討を行う予定である。
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