グリコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)-アンカーは、GPIアンカー型蛋白質を細胞膜上につなぎ止めるのに必須の糖脂質である。そのため、同アンカーの生合成不全は、多数のGPIアンカー型蛋白の細胞表面への発現を欠損させる。GPIアンカー生合成不全になるとヒトでは、発作性夜間血色素尿症(PNH)が発症し、マウスでは、胎生致死に至ることから、このシステムが、個体発生や生存のために必須な機能系であることがわかっている。本研究では、マウス生体内におけるGPIアンカー生合成系の動態を可視的にとらえるため、GPIアンカー型に改変したEGFP(EGFP-GPI)を作成し、これを導入したトランスジェニックマウス(Tgマウス)を解析することを目的としている。本年度は、以下のような結果を得た。 1、EGFP-GPIの発現が強力かつ安定な個体を選択し、Tgマウス家系を3家系樹立した。 2、Tgマウスの各組織におけるEGFP-GPIの発現量・発現パターンを、ウエスタンブロット法により解析した。その結果、上皮系組織においてEGFP-GPIの頂端部局在化がみられ、また、膵臓、顎下腺、精嚢等の外分泌線において、EGFP-GPIの分泌が認められた。 3、分泌型EGFP-GPIを抽出しウエスタンブロット解析を行ったところ、顎下腺で分泌されているものは、膜アンカー型や他の分泌型に比べて有為にサイズが小さかった。この分子を蛍光活性を指標として単一精製し、N末端分析、質量分析およびメタボリックラベル解析を行ったところ、同分子はC末端側にGPIに一部であるエタノールアミンリン酸が結合したかたちで分泌されていると推定された。また、そのサイズから、GPIの糖鎖部分やイノシトールリン酸は存在せず、この分子で産生は従来のフォスフォリパーゼとは別種の活性によると考えられた。
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