グリコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)は、アルカリフォスファターゼやThy-1等を代表とするGPIアンカー型蛋白質を細胞膜上につなぎ止めるのに必須の糖脂質である。一方、いくつかのGPIアンカー型蛋白質は、細胞膜上にとどまるばかりでなく、細胞外に放出されることは知られているが、その遊離メカニズムや生理的意義はよくわかっていない。我々は、生体内におけるGPIの動態を解明するため、GPIアンカー型に改変した蛍光蛋白質EGFP(EGFP-GPI)をレポーターとして作成し、これを導入したトランスジェニックマウス家系を樹立した。このマウスでは、上皮系組織においてEGFP-GPIの頂端部局在化がみられ、また、膵臓・顎下腺・精嚢等の外分泌腺および精巣において、EGFP-GPIの体液中への遊離が認められた。そこで、本年度は、GPIアンカー型蛋白質遊離に関わる因子の同定を試み、以下の結果を得た。 1)顎下腺組織より、抽出液を調整し、EGFP-GPI発現細胞からのEGFP-GPIの培養液中への遊離を指標に、GPIアンカー型蛋白質遊離因子の精製を、陰イオン交換、疎水性相互作用、ゲルろ過液体クロマトグラフィーにて行った。その結果、新規の腺性カリクレイン様蛋白が、同定された。しかしながら、この蛋白は、EGFP-GPIのみならず、膜貫通型EGFP(EGFP-TM)に対しても遊離活性を示す、また、GPIアンカー型蛋白の一種である胎盤型アルカリフォスファターゼ(PLAP)を遊離しないことから、真のGPIアンカー型蛋白質遊離因子としては、否定的であると考えられた。 2)精巣組織より、抽出液を調整し、EGFP-GPIおよびPLAPのTritonX-100可溶相から水溶相への転換を指標にGPIアンカー型蛋白質遊離因子の精製を、陰イオン交換、ConAアフィニティー、ゲルろ過液体クロマトグラフィーにて行った。まだ、部分精製の段階であるが、いくつかの性質が判明した。(1)おそらく、膜結合型蛋白である。(2)Ca依存性の酵素活性がある。(3)塩基性蛋白である。(4)予想分子量が60-70kdである。(5)精子形成の開始とともに酵素活性が上昇する。(6)代謝産物が、PLC切断残基を認識する抗CRD(cross-reactive determinant)抗体に反応しない。(7)EGFP-TMに対しては、遊離活性を示さない。 現在、この精巣におけるGPIアンカー型蛋白質遊離因子の精製をさらに進めている。
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