前年度の本研究ではEts-1の胃癌細胞への局在、特に癌の浸潤能との関連性を見出した。癌細胞の浸潤能の獲得にmatrix metalloproteinaseのひとつであるMMP-1の発現が重要であることが示唆されているが、Ets-1はMMP-1の転写調節因子である。本年度はEts-1の上皮細胞への局在と癌浸潤能との関連の普遍性を検討するために、ヒト大腸癌組織におけるEts-1の発現を免疫染色で検討し、さらに癌浸潤関連因子であるMMP-1の発現と比較した。大腸癌142例中108例(76.1%)にMMP-1の発現を癌細胞に認めた。一方、20例の大腸腺腫全例が陰性であった。浸潤癌に比べ粘膜内癌では有意に発現率は低かった。浸潤癌の中で、MMP-1免疫活性は腫瘍の深達度、腫瘍発育形態、リンパ管侵襲、静脈侵襲、神経浸潤、リンパ節転移、肝転移、とDukes分類の高いステージと有意な相関を認めた。これらの傾向はEts-1の発現と類似していた。MMP-1の局在は免疫染色において癌細胞とその周囲の間質細胞に認めたが、癌細胞へのMMP-1発現を確認するため、MMP-1オリゴプローブを用いin situ hybridizationを行い、またヒト大腸癌由来培養細胞より抽出したRNAを用いたRT-PCRにより、癌細胞へのMMP-1発現を転写レベルで確認した。 以上の結果は、MMP-1発現は大腸癌において腫瘍浸潤および転移に何らかの機能を有することを示している。Ets-1発現は胃癌のみならず大腸癌細胞へも局在し、MMP-1の免疫活性と類似していて、MMP-1転写活性による浸潤能との関連性が示唆される。
|