動脈硬化病変の発生・進展および急性冠状動脈症候群の発生の首座をなす血栓形成における血管平滑筋細胞(SMC)の関与を、特に、収縮型から合成型への形質変換と、凝固・線溶系因子の発現の差異について、剖検例およびDCAにより得られるヒト大動脈・冠状動脈の各種段階の動脈硬化巣において免疫組織学的に検討した。また、培養ヒト血管平滑筋細胞における合成型から収縮型への分化誘導モデルを作成し、各種凝固・線溶系蛋白の発現の差異を検討した。 1)ヒト剖検例からの大動脈・冠状動脈サンプルの収集と形質変換の証明 死後3-6時間以内の剖検例およびDCAサンプルにおいて、各段階の動脈硬化巣(びまん性内膜肥厚、粥腫、複雑病変)より免疫組織学的検討用に4%パラフォルムアルデヒド固定サンプルを収集したが、剖検例4例、DCA2例に留まった。免疫組織学的に細胞成分に富む動脈硬化巣におけるSMCはほとんどがSMemb陽性、SM2陰性で、収縮型から合成型へと形質変換しているものと思われた。また、凝固系の開始因子である組織因子(TF)およびその阻害因子である外因系経路阻害因子(TFPI)、さらに、線溶系因子であるウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベータ(uPA)およびその阻害因子のプラスミノーゲンアクチベータ-1(PAI-1)も発現していたが、症例が少なく一定の差異を見いだせなかった。また、凍結サンプルはごく少数しか、収集できなかった。 2)培養SMCの分化誘導およびその確認と凝固系因子の発現の検討 培養SMC(大動脈および冠状動脈中膜由来)を一定の細胞数(lx10^5/dish)で播種し接着・初期増殖を確認後低血清または無血清培養液(分化誘導培地)に置換し5日間培養、増殖培地および分化誘導培地に再び置換し、増殖(合成型)SMCと分化(収縮型)SMCを得た。形質変換を確認するために、形質変換の指標であるアクチン・カルポニン・カルデスモン・ミオシン重鎖の発現の差異を蛍光免疫染色および細胞抽出液を用いたウエスタンブロットによって検討したが、初代培養ではないためか、完全な収縮型への誘導は確認できなかった。しかし、培養上清・細胞抽出液を用いてTF・TFPI・uPA・PAI-1の発現をウエスタンブロット法にて検討したところ、再増殖させたSMCにおいて、培養上清中での有意なTFPI・PAI-1の増加を認めた。細胞抽出液中のuPAにおいては変化を認めず、TFにおいて測定感度以下であったため、現在、ELlZA法およびRT―RCR法にて検討をすすめている。
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