赤痢アメーバは動物に存在しないシステイン合成経路をもつ。システインは赤痢アメーバ細胞内で最高濃度を示すチオール化合物であり、システイン合成経路はグルタチオンを持たない赤痢アメーバにおける抗酸素機構の一部を担っていると考えられている。我々はこれまで本経路の複数の酵素遺伝子をクローニングし解析してきたが、本年度はセリンアセチル転移酵素欠損大腸菌株JM39/5と赤痢アメーバcDNAライブラリーを用いたレスキューにより、赤痢アメーバセリンアセチル転移酵素cDNA及びゲノムDNAクローンを獲得し、全塩基配列を決定した(accession number AB023954)。得られた遺伝子の翻訳蛋白は細菌及び植物由来の酵素と36-52%の同一性を示した。特に藍藻類Synechococcusのプラスミド上に存在する遣伝子産物と最も高い同一性を示し、赤痢アメーバセリンアセチル転移酵素が水平転移によりこの細菌或いはその祖先から獲得された可能性が示唆された。更に、大腸菌組み換え蛋白を作成し、酵素学的解析を行ったところ、赤痢アメーバのセリンアセチル転移酵素はシステインにより、セリンと競合的にアロステリック阻害を受けることが明らかとなった。また、シスチン及びシステインと構造の似たアミノ酸によっては阻害を受けなかった。以上より、赤痢アメーバにおいてセリンアセチル転移酵素は細胞内の酸化型・還元型システインの濃度を調節する重要な調節酵素であることが明らかとなった。
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