研究概要 |
ShigellaのipaBCD遺伝子産物は菌の上皮細胞への侵入能を直接担う。また、このipaBCD遺伝子はvirF、invEという2つの制御遺伝子によって正に調節され、さらに、virFの発現は染色体上にコードされる2成分制御系遺伝子cpxR-cpxAによってpH依存的に制御される。Salmonellaにおいて侵入能を担うsipBCDはShigella ipaBCDに相同性を示し、それに対する2つの正の発現制御遺伝子hilA、invFが存在するという制御様式も共通点がある。このような背景から、Shigella virFとSalmonella hilAの発現を制御する因子も共通している可能性がある。これを基に、本研究ではSalmonellaにおけるcpxR-cpxA相同遺伝子のhilA、invFやsipBCD遺伝子発現、ひいては総体的な病原性への関与を検討、解明することを目的とした。SalmonellaのcpxR-cpxA相同遺伝子の存在確認後、それらをクローニングし、そのクローンを用いてSalmonellaのcpxR,cpxAそれぞれの遺伝子破壊株を作製した。これら野生株、及び各破壊株で、1)hilA発現レベル、2)SipC産物(タンパク)量、3)哺乳類培養細胞への侵入能、を培養pHを変化させて測定、比較した。結果、cpxA変異株においてpH6.0培養後にいずれも大きな低下が見られた。pH8.0培養後はhilA発現レベルで若干の低下が見られた以外、野生株との差は検出できなかった。cpxR変異株では野生株との差異は検出できなかった。野生株、cpxR変異株ではいずれの項目もpHによる変化がなかった。以上より、cpxA遺伝子は、pH6.0での培養条件でのhilA発現、従ってその制御下にあるsipBCD発現、最終的には細胞侵入能の活性化に強く関与することが分かった。cpxR-cpxAはペアーを成す2成分制御系遺伝子であるが、この制御系でセンサーであるCpxAと連絡し、ターゲット遺伝子の転写を行なうレギュレーターとしてCpxR以外のものが機能すると考えられ、それを同定することが次なる課題となった。
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