これまでに、ウイルス感染あるいは二重鎖RNA刺激によって伝達されるシグナル伝達により、転写因子IRF-3はリン酸化され、核へ移行し、二量体を形成すると共にコアクチベーターであるp300/CBPと複合体を形成することにより、特異的なDNA結合能を獲得し、I型インターフェロン遺伝子の発現誘導に直接関与することを明らかにしてきた。この新しいシグナル伝達経路は、IRF-3のリン酸化が引き金になっていることが、昨年度までの解析から明らかになっていることから、このリン酸化に関わるキナーゼ分子の同定が重要な研究課題になってきていた。そこで本年度は、昨年度までに明らかにしてきたIRF-3の活性化に必須なC末端に存在する二つのセリン残基に焦点を絞り、in vitroでのリン酸化反応系の構築を行ってきた。その結果、ヒトHeLa細胞から調製した細胞抽出液を試料とし、IRF-3のC末端部分を大腸菌に発現させて部分的に精製したもの、あるいは同様の配列をもつ合成ペプチドを基質として用いることにより、in vitroでのリン酸化を観察することに成功した。また、上記の2つのセリン残基を他のアミノ酸残基に置換した変異型IRF-3を基質として用いた実験から、観察されたリン酸化がこれら2つのセリン残基に特異的に起きていることも確認した。そこで現在、このリン酸化反応系を指標として、大量に調製したHeLa細胞抽出液から、リン酸化に関わるキナーゼ分子の精製、単離を試みている。
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