研究概要 |
環境ホルモンコプラナーPCBによる細胞質チロシンホスファターゼ、肝臓型カルボニックアンヒドラーゼIII(CAIII)の抑制メカニズムを明らかにすることを目的として、まず3,3',4,4'、5-pentachloro-biphenyl(PCB126)処理ラットの肝臓よりmRNAを単離し、既にクローン化しているラット肝CAIIIcDNAをプローブとしてノーザンブロットを行なった。ノーマライズには、β-actinを用いた。自由に摂餌させた対照群および、PCB126処理群への摂餌対照群と比較した場合、PCB126処理群では、CAIII mRNAレベルが著しく低下していた。このことは、CAIIIタンパク質レベルの低下によく反映されていた。次に、筋肉のCAIIIについて調べた。肝臓と筋肉でのCAIIIの異同を明らかにするため、Wistarラットのヒラメ筋のCAIIIcDNAをRT-PCRでクローン化した。筋肉から得たCAIIIcDNAの配列は、肝臓のそれと完全に一致し、肝臓と筋肉のCAIIIは同一であることが示唆された。そこで、PCB126の筋肉のCAIIIに対する影響を、ノーザンブロットで解析した。その結果、筋肉のCAIIIは、PCB126処理によって、変らないか、むしろ増加することが分かった。CAIIIは、種を超えて筋肉に発現していると思われるが、PCB126による筋肉CAIIIの発現レベルへの影響を通じた毒性への寄与はあまり大きくないと推察された。ラット肝臓でのCAIIIの高発現の理由は、男性ホルモンの調節によるとの報告がある。ダイオキシンによってテストステロンレベルが下がることも示唆されている。このことから、筋肉のCAIIIは、男性ホルモンによる調節は受けていない可能性があり、肝臓と筋肉ではCAIIIの発現調節機構が異なっているものと推定される。
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