本年度は医療における自己決定志向を計量する質問項目の開発を行い、無作為に抽出された某市一般住民を対象にその評価を試みた。某市の選挙人名簿をもとに20歳以上70歳未満の一般住民を各年齢層性別に30名ずつ計300名を無作為抽出し、郵送にて無記名調査票を配布、回収した。回収率を上げるため催促状も郵送し、164名より調査票を回収した。解析は欠損値のない男性64名、女性62名について行った。自己決定志向を示す6項目について内的整合性を示すCronbach'sα係数は0.70であった。また自己決定志向に影響を及ぼすと考えられる自身の身体、心の状態(健康資本)に対する質問項目を因子分析したところ、「健康資本に対する所有」および「健康資本の保全向上」の二因子に分かれ、それぞれのCronbach'sα係数は0.71、0.68であった。自己決定志向6項目の合計得点を自己決定志向得点とし、その外的妥当性を検討するため他の指標得点との相関係数を求めたところ、「健康資本の保全向上」得点および、DeberらによるDecision Making scoreとの相関係数が有意となり、それぞれ0.26、0.23であった。また年齢、性別等の影響を取り除くため自己決定志向得点を従属変数とした多変量解析においてもこの二要因が有意な影響要因として検出された。この調査結果から個人の医療における自己決定志向を計量するのに6つの質問項目が有用であること、また自己決定志向には自己の健康資本に対する所有意識よりも健康資本の保全向上意識が影響していることが示唆された。この結果をもとに、自己決定志向と実際の医療の場面での自己決定行動との関連および自己決定志向と治療後不安との関連を明らかにするため、現在某総合病院にて乳腺疾患患者を対象にインタビュー形式の調査が進行中である。
|