現在法医学領域で用いられている各種DNA多型の検出効率が、試料の種類・陳旧度・保存環境の違いなどの条件にどのように影響されるかを実験的に検討し、そしてそれらの条件がどの程度までなら多型検出が可能であるか、について検証を試みた。 まず、過去約50年間に採取・保存されてきた法医学的試料を、試料の由来、陳旧度、保存条件の違いにより段階的に分類し、それらの試料からDNAを抽出し、PCRを用いたSTRなど複数の多型マーカーの型判定を行うことにより、各分類別の検出限界について検討した。その結果、血痕については昭和20年代、体液痕では平成元年以降、毛髪については昭和20年代、硬組織(骨)については昭和40年代以降の、検討したすべてのサンプルについて、(一部例外を除いて)STR多型またはミトコンドリアDNA多型の検出が可能であることを確認した。また、その検出感度については、試料の由来が溺死や焼死より自然死体からのもの、陳旧度では作成または採取年度のより新しいもの、そして保存条件がより良好なもの(土中や水中、焼損死体より通常の自然死体)の方が高いことを実証した。 次に、DNAの断片化に関与すると考えられる物理的要因とその影響を明らかにするため、法医学的試料(毛髪および骨)について、加熱環境、酸性またはアルカリ性環境、水中環境などの条件を人工的に段階設定し、それらの段階別および暴露時間の違いにより多型検出効率にどのような差が生じるのかを検討した。その結果、数百度以上の高温、長期(年単位)の強酸または強アルカリへの暴露、そして年単位の水中環境に置かれた骨などでは、組織内のDNAの断片化が著しく、これらの条件下ではDNA多型の検出が極めて困難となることを確認した。
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