死体硬直の筋肉による違いについて研究を進め、ラットを用いた実験において、次のことを新たに明らかにした。 1.ATPase酵素組織化学により分類したfiber typeのうち、type Iの多いいわゆる赤筋では、typeIIBの多いいわゆる白筋に比べ、筋肉内のATPは死後速く減少した。 2.咀嚼筋(咬筋および側頭筋)においては、グリコーゲン量が下腿の筋肉よりも少なく、死後に早く枯渇した。解糖系の最終産物である乳酸の濃度も死後早期では咀嚼筋において低値であり、グリコーゲン分解および解糖系の活動が死後の咀嚼筋では下腿の筋肉に比べ低いことが示唆された。 3.一定温度の流動パラフィン内で死後の筋張力の変化を等尺的に測定する、新しい死体硬直の測定法を開発した。これにより、乾燥や筋肉内外の物質の拡散を防ぎながら筋肉を無酵素の状態におき、複数の筋肉で死体硬直を比較することが初めて可能となった。 4.前項の方法を用いて、腓腹筋の赤筋部・白筋部と赤筋であるヒラメ筋の硬直を比較したところ、白筋の硬直は赤筋よりも大きく遅れて始まり、同様に大きく遅れてピークに達した。白筋の硬直の緩解は赤筋よりも速く進行した。また、37℃と比べて25℃では硬直の進行が大きく遅延した。 これらの成果により、定量された硬直、筋肉の生化学的な死後変化、fiber typeの違いによる筋肉の特性という3つの因子の関係を明らかにしつつある。今後は、50年前に提唱された、筋肉の大きさによって死体硬直の進行が異なるというShapiroの仮説についての検討や、咀嚼筋と下肢筋における硬直の違い、^<31>P-NMRを用いた筋肉内ATPおよびクレアチンリン酸濃度の死後変化における違い等についての再検討などを行っていく予定である。
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