死体硬直の筋肉による違いについて研究を進め、ラットを用いた実験において、次のことを新たに明らかにした。 1.一定温度の流動パラフィン内で死後の筋張力の変化を等尺的に測定する死体硬直の測定法を昨年の本研究において開発した。これを用いた実験を行い、「筋肉が大きいほど硬直が速く進行する」というShapiro(1950)が発表した仮説に反し、筋肉の大きさと死体硬直の進行との間に関係がないことを示した。 2.上記と同様の実験において、開始時に負荷した張力(前負荷)には、死体硬直がピークに達するまでの時間との関係がないことを示した。これにより、死体の肢位と硬直が最高度に達するまでの時間との間に関係はないものと考えた。ただし、硬直の開始および緩解については、前負荷によって差が認められた場合が少数認められた。 3.脊柱起立筋は、赤筋と白筋が混在した筋肉であり、この筋肉を用いた同実験においては硬直の進行が二相性となり、それぞれ赤筋および白筋の硬直を表しているものと考えられた。 本研究の成果により、定量された硬直、筋肉の生化学的な死後変化、fiber typeの違いによる筋肉の特性という3つの因子の関係がほぼ明らかとなった。しかし、これらの現象は発見されたものの、その原因はいまだ明らかではない。今後は、^<31>P-NMRを用いた筋肉内ATPおよびクレアチンリン酸濃度の死後変化における筋肉間の違いを明らかにし、生化学的な死後変化についてさらに詳細な検討を加える。それとともに、死体における硬直には複数の要素(成分)が含まれているため、この定量法として、一つの要素である死後の張力発生のみならず、もう一つの重要な要素であるstiffness(伸展性の低下)について定量を行う。さらに損傷を加えないintactな筋肉についての検討を重ねていく予定である。
|