今年度はまず最初に、これまでに得られた健常人集団におけるドパミン系遺伝子関連領域(DAT1、DRD4、COMTなど)の遺伝的多型のデータと、心臓性突然死症例(主に心筋梗塞)より得られた多型データとの比較、検討を行い、その結果、DNAレベルでは両者間に有意差は認められないことが判明した。そこで次に、心筋梗塞発症時のRNAレベルでの変化を検索するため、まず動物実験を第一段階として、開胸下にラット冠動脈を結紮することで虚血による心筋梗塞モデルを作成した。そして近年、心筋梗塞による細胞死にはアポトーシスの関与が示唆されていることに加え、ラットにおいてもその発現が確認されているアポトーシス関連遺伝子Bcl-2に着目し、虚血再灌流によるBcl-2mRNAの発現量の変化を半定量的RT-PCR法、さらにmRNAの配列異常をRT-PCR-SSCP法を用いて検索した。その結果、Bcl-2mRNAの発現は、虚血30分再灌流0〜6時間の間で認められ、半定量的にはその発現量にほとんど変化は認められなかった。さらに、RT-PCR-SSCP法によるBcl-2mRNAの塩基変異の検索の結果、変異は認められなかった。これらのことから、Bcl-2mRNAをターゲットとする遺伝子学的診断マーカーへの応用は困難と考えられたものの、心筋細胞における虚血再灌流時のアポトーシスの関与を検索する上では、非常に興味深い知見を得た。今後は引き続き動物実験において、ドパミン系遺伝子関連領域についてのRNAレベルでの検索を行うとともに、第二段階として、心臓性突然死症例におけるRNAレベルでの検索を行う予定である。
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