研究概要 |
本年度は同種骨髄移植後の免疫抑制下におけるサイトメガロウイルス(CMV)の再活性化を評価するため,骨髄移植後の患者の末梢血白血球中のCMV抗原(CMV antigenemia)を検出した。同時に症例を選別して,再活性化の検出された症例に対してganciclovirによる抗CMV療法を開始し,CMV感染症の発症予防効果を検討した。また同時により感度の高いpolymerase chain reaction(PCR)法による再活性化の検出を,最近開発された定量性のあるreal-time PCRにても試みた。 評価可能症例は同種骨髄移植50例の患者である。移植後ほぼ半数の患者はCMV antigenemiaの陽性化がみられた。そして我々のこれまでの経験から中等症以上の急性移植片対宿主病(CvHD)の発症症例はCMV感染症のハイリスク症例となるため,CMV antigenemiaが陽性化しGvHDを同時に発症している症例に対してのみ抗CMV療法を開始した。この結果,50例中CMV感染症の中で最も致死率が高いCMV肺炎の発症は1例も見られなかった。しかしCMV胃腸炎7例,網膜炎1例の発症がみられた。特にCMV胃腸炎発症例では発症時にCMV antigenemiaが陰性の症例が多く、先行性という点で問題があると考えれた。そこでCMV再活性化の検出感度を高めるためPCRを,今後の臨床応用も考慮して,定量をもったreal-time PCRを用いて再検討した。検体は潜伏感染を除外するため、血漿から抽出したDNAを用い,CMV antigenemiaの有効性が低いと考えられた胃腸炎発症症例7例において検討した。7例中6例において発症前あるいは発症時にreal-time PCRでCMVが検出され,real-time PCRのCMV antigenemiaよりも優れたCMV再活性化の早期検出の有効性が示された(Mori T,et al)。しかし,感度が高いため全症例に対してreal-timePCRを指標とした治療を施行することは過剰治療になる可能性もあり,CMV感染症のよりハイリスクな症例を選別することが必要と考えられた。 現在,ハイリスク症例として中等症以上のGvHDを合併した症例を対象としてreal-time PCRの有効性を検討中であり,同時にこれらの症例でのハイリスクとなる機序を抗CMV免疫の回復を免疫学的に解析することで解明することも検討している。
|