研究概要 |
本研究では慢性関節リウマチ(RA)患者の局所病変である関節滑膜における神経・免疫・内分泌軸の関与の解明を目的に滑膜細胞と局所に浸潤するリンパ球との相互作用による病態形成に注目し,滑膜局所で産生されるホルモン・神経ペプチドを同定し、その病態における作用を検討した。今年度は乳汁分泌ホルモンであるプロラクチン(PRL)のRA滑膜における役割を検討した。RA患者の関節手術時に得られた滑膜組織を凍結し、組織標本から切片を作成した。免疫組織化学染色法によって染色し、PRLの局在を明らかにした。PRLは滑膜浸潤リンパ球部位に一致して産生され、主にCD4陽性T細胞から産生されると考えられた。また継代した滑膜細胞もPRL陽性であった。RT-PCR法で滑膜浸潤Tリンパ球および滑膜細胞にPRLmRNAの発現を認めた。PRLレセプター(PRLR)の発現を免疫組織染色およびRT-PCR法で検討した結果、PRLRは滑膜表層細胞、線維芽細胞様滑膜細胞、滑膜浸潤リンパ球に広範に分布していることが明らかにできた。そこで滑膜細胞の機能に対するPRLの影響を検討した。PRLは滑膜細胞の増殖を増強し、IL-6,IL-8の産生を増強し、MMP-3産生の増強、TIMP-1産生の抑制に働くことがわかった。またプロラクチンの分泌を抑制する物質であるブロモクリプチン(BRC)をリンパ球やマクロファージ様滑膜細胞を含んだ初代滑膜細胞に添加し、増殖やIL-1β産生を検討すると、BRCはPRLの分泌を抑制し、滑膜細胞の増殖及びIL-1β,IL-6の産生を抑制した。以上の結果より、PRLは滑膜浸潤Tリンパ球より主に産生され、産生されたPRLは滑膜細胞に作用し、滑膜細胞の増殖やサイトカイン産生を増強させることで局所の炎症を増悪させ、コラゲナーゼ産生を増強することで骨軟骨破壊に関与し、RAの病態を修飾していることを明らかにできた。
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