研究概要 |
Wistar系雄性ラットにL-arginine monohydrochloride(Arg)4.5/kg体重を単回腹腔内投与し、急性膵炎を作成した.このモデルは3日目までが急性膵炎進展期であり,急激に膵重量が減少し,組織学的にはduct-like tubular complexを呈するようになる.0,0.25,0.5,1,3,5,7,9,11,14日目に屠殺し、膵を摘出して組織学的・生化学的検索に供した。併せて、CCK受容体拮抗剤・CR1505 50mg/kg体重を6日目から1日2回皮下投与した群と比較を行った。屠殺1時間前にBrdUmg/kg体重を静注した.CR1505を急性膵炎回復期初期に投与開始した上記の群については、膵再生が抑制されたが、この際腺房細胞のBrdU標識率は無処置群に対して,有意な低値をとった.他方,腺房細胞のTUNEL陽性率は無処置群に比し高値を示すものの,統計学的に有意ではなかった.また,急性膵炎回復期である7〜11日の血漿CCKと腺房細胞のBrdU標識率との間には有意な正の相関(r=0.555,p<0.001)があったが,血漿CCkと腺房細胞のTUNEL陽性率との間には有意な負の相関が得られなかった.急性膵炎の進展期(12時間後)に膵腺房細胞のBrdU標識率は上昇をみなかった(0.27±0.17%)にもかかわらず,PCNA陽性率は急激に上昇し(15.3±1.85%),Western blottingでは71kDの部位に強い発現を認めた(Dig Dis Sci 41(9):1828^〜1837,1996).急性膵炎進展期における腺房細胞のPCNA(36kD)は,polymericであるかcyclin D_1(35kD)などのG_1 cyclinとの複合体として増加していることが想定された.従って,引き続き急性膵炎進展期におけるcyclin D_1mRNAの発現を確認した.すなわち,Arg 4.5g/kg体重を単回腹腔内投与後0、0.25、0.5日目に膵を摘出しAGPC法によりTotal RNAを抽出し,RT-PCR法によりcyclin D_1mRNAの発現を内部標準G3PDH mRNAとの比(RGU:Relative Gene Unit)によって確認した.急性膵炎進展期のマーカーとしてPAP(pancreatitis associated protein)mRNAを併せて検出した.急性膵炎の進展に平行して,PAPmRNAは0.3846RGU(0日),0.9103RGU(0.25日),1.3636RGU(0.5日)と上昇した.この際,cyclin D_1mRNAは0.029RGU(0日),0.1837RGU(0.25日),0.9506RGU(0.5日)と基礎値の32.8倍に箸増した.急性膵炎進展期にG_1サイクリンであるPCNAやcyclin D_1の発現が増加することが確認され,急性膵炎進展期における腺房細胞の一部がG_0期から一旦G_1期に入り死滅する可能性が示唆された.
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