研究概要 |
【背景・目的】肝細胞増殖因子(HGF)は主に腫瘍を構成する間質細胞より分泌され、腫瘍細胞の増殖、浸潤、血管新生を促進する。最近、伊達らによりHGFのアンタゴニストとしてHGF/NK4が同定され、腫瘍の増殖・浸潤を抑制することが報告された(Oncogene 17:57-65,1998)。そこで我々は、HGFアンタゴニストによる肺癌の増殖抑制をめざした遺伝子治療の開発に資することを目的に、HGF/NK4遺伝子を発現するアデノウイルスベクター(AdCMV.NK4)を作製し、腫瘍増殖抑制効果をin vitroとin vivoで検討した。【方法】In vitroでヒト非小細胞肺癌細胞株(H358およびA549)に感染させ増殖抑制効果を検討した。またBalbC nu/nuマウスにH358とA549腫瘍細胞(1×10^7 cells)を皮下移植した後、4日目と10日目にAdCMV.NK4ベクター(5×10^9 pfu)を腫瘍内に注入し、腫瘍径を対照群と比較した。さらにその腫瘍組織を採取し、免疫組織染色法(抗Cd31抗体)を用い、腫瘍内血管新生について解析した。【結果】In vitroの実験では対照群と比較し腫瘍増殖に差がなかったが、in vivoでは移植後28日目にAdNull群と比べ著しい腫瘍増殖抑制効果が得られた(H358:86.2%の抑制,n=4,p<0.01, A549:64.7%の抑制,n=4,p<0.01)(第58回日本癌学会[1999.9月、広島]で報告)。さらに腫瘍組織内において、NK4投与群で有意に血管数が減少していた(P<0.0001)。【考察】AdCMV.NK4は、in vitroでは腫瘍細胞への直接的作用がないにもかかわらず、in vivoにおける腫瘍増殖を著しく阻害した。またその腫瘍増殖抑制効果には血管新生抑制作用が関与していると考えられた。平成12年度は、HGF/NK4の抗腫瘍効果に関して、より詳細なメカニズムの検討を行う予定である。
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