筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis以下ALS)は進行性の難治性神経疾患で、その予後はきわめて不良である。ALS発症者の5-10%は家族性ALSで、通常は常染色体優性遺伝形式をとる。近年、家族性ALSにおいてCu/Zn superoxide dismutase(以下Cu/Zn SOD)遺伝子の変異が報告され、それによる運動ニューロン選択的細胞死の機序の解明が待たれている。本研究はCu/Zn SOD遺伝子異常による運動ニューロンの選択的細胞死の機序を解明するために、研究代表者である青木が既に報告している日本人独自の点突然変異をマウスに導入し、ALSの新しいモデルマウスを作成する。臨床的に非常に急速な経過をとることALS家系での点突然変異(L84V)と極めて緩徐な経過をとるALS家系の突然変異(H46R)を持つ2種類のトランスジェニックマウスを作成し、その表現型の違いを検討することにより、神経細胞死の機序を解明することを目的とする。H46R変異はCu/Zn SOD遺伝子の活性中心に存在している。まずプロモーター領域を含むゲノムCu/Zn SOD遺伝子内にミスマッチプライマー法を用いて、前述の日本人家族性ALS患者における点突然変異の導入を行った。その変異遺伝子をマウス受精卵の前核へ微量注入することによりトランスジェニックマウスの作成を行った。生まれてきたマウスの尾部からDNAを抽出しサザンブロット法により導入遺伝子を確認し、生まれたマウスの各臓器における変異Cu/Zn SOD蛋白の発現をウエスタンブロッド法にて確認した。H46R変異を導入したラインのうち変異Cu/Zn SOD蛋白発現量の高いトランススジェニックマウスのラインでは生後約150日で運動ニューロン病の発症がみられ、経過約30日で死亡にいたることが明らかになった。
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