本態性高血圧症は種循環器合併症の主要因であり、遺伝因子の同定は疾患の早期診断に役立つだけでなく、薬剤の選択や、生活指導にも貢献することが期待される。しかし、これまでの症例・対照研究では、集団の選択バイアスにより、1因子の影響の小さいとされる高血圧感受性遺伝子の同定は困難であった。本研究では、2つの住民ベースの大規模コホート研究のDNA解析を行うとともに、高血圧疾患感受性遺伝子解析にとどまらず、合併症や薬剤反応性への候補遺伝子多型の影響を検討した。都市型地域住民を用いた大規模コホート研究ではアンジオテンシン変換酵素遺伝子(ACE)のDD型が、男性特異的に疾患感受性を高めることを報告したほか、アンジオテンシノーゲン遺伝子(AGT)のT+31C多型が高血圧家族歴と相関することも示した。また、AGTのハブロタイプ解析により、多型・血中濃度・高血圧リスクの関連を検討し、AGT/M235T多型と高血圧の関連には血中AGT濃度上昇が直接関与しないことを示したほか、農村部一般集団の解析では欧米で発表された高血圧感受性遺伝子(GNB3)多型とは相関しないこと、レニンーアンジオテンシン系遺伝子多型と無症候性脳梗塞の関連の検討、Naチャネル遺伝子の新しい多型の報告なども行った。さらに、薬剤反応性では、ACE/DDがACE阻害薬のPTCA後の再狭窄予防や降圧薬治療に対する抵抗性を増すことなども見いだした。
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