我々はこれまでに以下の点を明らかにしてきた。ウシクロマフィン細胞においてエンドセリン-1(ET-1)が一酸化窒素の合成を促進する。ヒト肥大扁桃腺の濾胞中心においてマクロファージと肥満細胞がET-2やET-3ではなくET-1mRNAを発現し、同時に活性型ペプチドを合成していることを明らかにした。このマクロファージはNF-κBの核内への移行と一酸化窒素合成酵素を発現していたことから活性化したマクロファージであることが明らかとなり、扁桃腺の病態進行にET-1が関与している可能性を示唆した。また、我々はこれまでにヒトキマーゼがbig ET-1から31個のアミノ酸からなる新規の血管作動性ペプチド、ET-1(1-31)に変換することを見出した。このET-1(1-31)は特異的にETAタイプ受容体を介して血管収縮反応、細胞内カルシウムの上昇、細胞増殖能、サイクリンD1の誘導等様々な生理機能を有することを明らかにしてきた。しかし、疾患に関する基礎的なデータが少ないのが現状である。 そこで、本研究は生活習慣病とET-1(1-31)の関連性についてハムスターを用い、以下の事項を明らかにした。普通食群、高脂肪食群、高脂肪食+L-NAME投与群の3群を作成し、10週間後の血圧、組織染色、血管張力反応、酵素活性(キマーゼとアンギオテンシン変換酵素)を測定し、解析した。その結果、血圧については普通食群(80mmHg)、高脂肪食群(80mmHg)では実験開始から終了まで血圧の上昇は確認されなかった。それに対して、高脂肪食+L-NAME投与群では実験開始から血圧の上昇が見られ、実験終了まで高い血圧を維持した(120mmHg)。組織染色の結果、心臓と大動脈弓において高脂肪食+L-NAME投与群に有意なET-1(1-31)様免疫反応が冠動脈周囲、動脈外膜に確認できた。胸部大動脈における血管張力の結果は普通食群、高脂肪食群ではアセチルコリン、フェニレフリンの反応性に差は見られなかったが、高脂肪食+L-NAME投与群では収縮反応の高進と、弛緩反応の抑制が見られた。また、ET-1(1-31)に対する収縮反応は高脂肪食+L-NAME投与群で有意な収縮反応の高進とETAタイプ受容体への結合特異性が上昇した。胸部大動脈のキマーゼとアンギオテンシン変換酵素は高脂肪食群、高脂肪食+L-NAME投与群で酵素活性が促進し、中でもキマーゼの活性が上昇する傾向が見られた。今後、長期間処置したハムスターを解析することにより、3群間の特徴がより明らかになり、生活習慣病とET-1(1-31)の関連性の解明が進むと考えられる。
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