研究概要 |
目的 実験的糖尿病ラットモデルにおいて,虚血抵抗性が認められ,その機序のひとつにNa^+/H^+交換系の活性の低下が関与していることは報告されているが,我々はその活性の低下がNa^+/Ca^<2+>交換系を介したCaの過負荷を軽減することを明らかにしてきた.今回,Ischemic preconditioningの心筋保護作用,実験的糖尿病ラットモデルにおける虚血抵抗性の機序を細胞内pHなどのイオン動態面から検討した. 方法 SD系ラットを用い,尾静脈よりStreptozotocin50mg/kgを投与し,糖尿病ラットを作成. 摘出心をLangendorff法にて灌流.灌流液にHEPES buffer Tyrode液を用い,基質とし11mM glucoseを添加.Ischemic preconditioningは3分間の短時間虚血を3回繰り返すことにより作成した. 好気的灌流の後、一方向性バルブを作動させることにより拡張期の冠灌流を遮断し15分間の低灌流虚血を作成し,15分間の再灌流を行った.灌流中,心血行動態として左室圧を測定し,心電図をモニターした. 細胞内pHの測定 Xenonランプを光源とした光ファイバー照射測光ユニット(CAF110)を用い細胞内pHの蛍光指示薬であるBCECF/AM(2;7-bis(carboxyethyl)-5,6-carboxyfluorescein)を心臓に負荷し,細胞内pHを測定. 結果 Ischemic preconditioningにより虚血時の細胞内pHの低下は,Ischemic preconditioning非作成群(6.6±0.05vs6.8±0.03,p<0.05)に比較し有意に抑制されたが,糖尿病心臓において,虚血時の細胞内pHの低下抑制に対して相乗効果は認められなかった.しかし,基質を除いた条件下では,細胞内pHの低下は基質投与群に比較し軽減された(6.8±0.04vs7.0±0.02,P<0.05). Bafilomycin 50nM投与にて再灌流後の細胞内pHの回復は非投与群に比較し遷延された.しかし,糖尿病群,非糖尿病群における細胞内pH動態において有意な差は認めなかった. 考察 糖尿病心臓における虚血抵抗性はNa^+/H^+交換系とNa^+/Ca^<2+>交換系を介したCaの過負荷を軽減することを明らかにしてきたが,プロトンポンプの細胞内pHの調節機構は糖尿病群,非糖尿病群において明らかな差は認めなかった.糖尿病における細胞内pHの機序には糖代謝からのプロトン産生の影響が大きいことが示唆された.
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