我々の研究の目的は、培養心筋の移植による心疾患治療の実用化のため、in vitroにおける心筋分化誘導増殖条件を明らかにすることである.本研究の目的のため、マウスの胚性ガン細胞種、P19細胞を利用した.本細胞は培養液中に様々な濃度のレチノイン酸を添加する事により、神経細胞、骨格筋細胞、心筋細胞などへ自由に分化誘導することができ、従来より細胞分化の研究に広く用いられてきた.我々が本細胞を各種細胞へ分化させ、その経過中に発現する遺伝子発現について見当した. TGFβ1は心臓の正常な発生に必要不可欠な遺伝子であることが報告されている.P19細胞の分化誘導過程におけるTGFβ1遺伝子の発現について解析したところ、心筋分化誘導時には通常知られているTGFβ1に加えてTGFβ1遺伝子のスプリシングヴァリアントが心筋分化に伴って増加することを発見した.このPCR産物の塩基配列を決定したところ、翻訳領域の一部に従来イントロンと考えられてきた配列が挿入されていることが解った.また、従来のTGFβ1より若干短い蛋白をコードしていることが推察された. RT-PCR、RNAce Protection Assayにより、その発現はマウス胎児の115日目から発現しており、成人においては心臓と脾臓に多いことが解った.また、培養細胞では線維芽細胞由来の細胞に発現していた.マウスの心筋線維芽細胞を培養したところこれにも発現していることが明らかになった. 心筋肥大に心筋線維芽細胞が関与していることが報告されている.本研究によってクローニングされたTGFβ1遺伝子のスプリシングヴァリアントは、今後心筋分化増殖において心筋線維芽細胞の果たす役割を解明する上で重要な分子である可能性がある.
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