血液透析患者では動脈硬化症が同世代の健常者に比較して進展しているが、いかなる機序で動脈硬化症を促進しているかについては十分に解明されていない。一方TGF-β1は潜在型で細胞外に放出された後、プラスミンにより成熟型となりその作用を発揮する。近年リポタンパク(a)[Lp(a)]が動脈硬化の危険因子とされ、その機序として抗プラスミン作用によるTGF-β1の活性化抑制が関与していることが示唆されている。血液透析患者における動脈硬化にTGF-β1が如何に関与しているかを解明するため、血液透析患者(HD群)51例、非透析慢性腎不全患者(non-HD-CRF群)12例、健常対照者(C群)13例を対象とし、血漿Lp(a)濃度、血漿TGF-β1(total及びmature)を測定した。また頸動脈超音波断層法での内膜中膜複合体(IMT)及びプラークスコアー(PLQ)を動脈硬化度とした。 HD群、non-HD-CRF群ではC群と比較してIMT、PLQ、血漿Lp(a)及びtotal TGF-β1濃度は有意に高値を呈したが、mature TGF-β1濃度は各群で有意差は認めなかった。HD群ではIMT、PLQは年齢、血清Lp(a)と正相関を示したが、透析前後での血漿TGF-β1濃度は有意な変化は認めず、血漿TGF-β1とIMT、PLQ、血漿Lp(a)は明らかな相関はみられていない。 血液透析患者では同年代の健常者に比べて明らかに動脈硬化は進展し、動脈硬化度は血漿Lp(a)濃度と明らかな相関関係がみられたが、動脈硬化度及びLp(a)と血漿中のTGF-β1濃度及び活性化との間には相関が見られなかったことから、血液透析患者ではLp(a)は主要な動脈硬化促進物質であるが、その作用がTGF-β1の活性化抑制に伴うものかにについては明らかではない。
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