研究概要 |
臨床研究において、頚部吸引(neck suction)は頚動脈洞圧反射の機能評価のために広く利用されている。頚部吸引を行うと、頸動脈血管壁が伸展されて頚動脈洞圧反射が亢進し、体血圧が低下する。この体血圧の低下は大動脈圧反射を抑制するので、大動脈圧反射は体血圧を上昇させるように作用し、結果的に頚動脈洞圧反射と拮抗すると考えられる。本研究では、このような2つの動脈圧反射の拮抗が、単純な線形システム・モデルで記述可能かどうかを調べた。臨床研究では動脈圧反射の開ループ・ゲインを正確に測定する方法がないので、麻酔下のウサギを用いて、体循環から分離した頚動脈洞に任意の圧負荷を行うことにより、頚部吸引の実験モデルを作成した。この実験モデルにおいて、大動脈圧反射を有効にした場合と無効にした場合とで、頚部吸引に対する血圧応答がどう変化するかを調べた。その結果、50mmHgの頚部吸引に対して、大動脈圧反射がない場合の血圧応答(-27.4±4.8mmHg)に比べて、大動脈圧反射がある場合の血圧応答(-21.5±3.8mmHg)は有意に減少した(n=6,P<0.01)。この値から計算した頚部吸引に対する閉ループ・ゲインは-0.43±0.08であり、頚動脈洞圧反射および大動脈圧反射の開ループ・ゲインから線形システム・モデルで予測した値(-0.43±0.09)とよく一致した。このような一致は、30mmHgの頚部吸引でも確認できた。以上のことから、頚部吸引時の血圧応答は、頚動脈洞圧反射と大動脈圧反射を考慮した単純な線形システム・モデルで記述できると考えられる。この線形性を利用すれば、大動脈圧反射と頚動脈洞圧反射とのゲインの比を仮定することにより、頚部吸引に対する血圧応答から、動脈圧反射の開ループ・ゲインを推定できる。
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