研究概要 |
頸部吸引(neck suction)は動脈圧反射の機能を評価する方法として臨床研究で利用されているが、頸部吸引時は大動脈圧反射が頚動脈洞圧反射の作用に拮抗するために、頸部吸引の結果からだけでは動脈圧反射の開ループ・ゲインを正確に測定することはできない。しかしながら、頸部吸引時に観察される交感神経活動と体血圧との関係は、大動脈圧反射の有無に影響されないことから、頸部吸引によって動脈圧反射の末梢弓の傾きが推定できると考えられる。一方、頸部吸引と並んで良く利用される下半身陰圧負荷(lower body negative pressure)を用いると、動脈圧入力と交感神経活動との関係、すなわち動脈圧反射の中枢弓の傾きが推定できると考えられる。この末梢弓及び中枢弓の傾きの積を計算すると、動脈圧反射全体の開ループ・ゲインが推定できる。以上の仮説を検証するために、麻酔下のウサギを用いて、頸部吸引及び下半身陰圧負荷の模擬実験を行った。頸部吸引の模擬は、頚動脈洞にかける圧を体血圧よりも30mmHgだけ高く保つことによって行った。下半身陰圧負荷の模擬は5ml/kgの脱血によって行った。これら2つの循環負荷によって得られた末梢弓及び中枢弓の傾きの積から推定した動脈圧反射全体の開ループ・ゲイン(Ge)は、従来の頚動脈洞を体循環から分離する方法で実測した動脈圧反射全体の開ループ・ゲイン(Go)と極めて良好な相関を示した(Ge=1.06×Go+0.09,r2=0.96)。以上のことから、頸部吸引単独では動脈圧反射の開ループ・ゲインを推定することは難しいが、頸部吸引と下半身陰圧負荷を組み合わせることにより、動脈圧反射の開ループ・ゲインを推定できると結論した。ただし、実験は迷走神経を切除した麻酔下のウサギで行ったものであり、臨床研究への応用にはさらなる基礎研究が必要と考えられる。
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