近年、画像および脳電気生理の進歩にともない、てんかんの原因として皮質異形成(cortical dysplasia;CD)が多くみられることがわかってきた。CDは脳細胞の分化、移動の障害であり、てんかん原性を有すると考えられている。われわれは、CDの成りたちやてんかん原性のメカニズムを解析することを目的とし、まずCD組織で特異的に発現が増強、減弱している遺伝子について同定を試みた。切除されたCDおよび正常脳皮質からメッセンジャーRNAを抽出、Subtraction法を用いて発現に差のある遺伝子をクローニングし、塩基配列を決定した。今までに約20種類の遺伝子を同定した。発現が増強しているものには、GFAP、S100、MIC2などのアストロサイトマー力ーがあり、CD組織で増加している異形グリア細胞がアストロサイト由来であることを示唆している。また、多くのリボゾーム蛋白が増加しておりCDでは細胞の増殖(代謝)が正常皮質よりも盛んであることが考えられた。逆に現弱しているものの中にカリウムチャンネルがあり、カリウムチャンネルが神経細胞の興奮について抑制的に働くことを考えると興味深い。このほか、発現に差異のある数種類の未知の遺伝子断片をそれぞれクローニングしている。今後はin situ hybridizationや免疫染色を用いて今までクローニングした遺伝子の組織上での発現について検討を加えるとともに、未知の遺伝子については全長cDNAのクローニングを試みる予定である。
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