【背景】ジストロフィン遺伝子の欠失により、mRNA上での欠失している領域の塩基数が3の倍数+1あるいは+2(out-of-frame)であるとDuchenne型筋ジストロフィー症(DMD)となるが、3の倍数(in-frame)であるとより軽症なBecker型筋ジストロフィー症(BMD)となる。申請者は先にエクソン19内に存在するエクソン認識配列に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(AS-oligo)によりスプライシングの過程においてエクソンをスキッピングさせることが可能であることをin vitro、培養細胞の系およびマウスへの筋肉内投与において明らかにした。このことを臨床に応用することができると、DMDの症例の欠失領域に隣接するエクソンをAS-oligoによりmRNA上から消失させ、欠失領域をin-frameに変え、表現型をDMDよりBMDに変更することが可能である。このような臨床応用を考える上での基礎研究として、AS-oligoをマウスへ全身投与し、生体内におけるAS-oligoの分布およびスプライシングに対する効果を検討する。 【方法】ジストロフィン遺伝子エクソン19内に存在するエクソン認識配列に対するAS-oligoをFITCによて標識し、筋ジストロフィーのモデルマウスであるmdxマウスへ腹腔内投与する。経時的に筋組織を摘出し、蛍光顕微鏡によってAS-oligoの分布を検討する。さらにRNAを抽出し、RT-PCR法によってジストロフィン遺伝子エクソン19のスキッピングの有無を検討する。 【結果と考案】AS-oligo腹腔内投与2日後にはAS-oligoが筋細胞の核内に到達していることが確認され、さらに2週間後においても核内にFITCによる蛍光が確認された。また、AS-oligo(20mg/kg)投与後RT-PCR法によってジストロフィンmRNAを検討したところ、投与2日後をピークとしてエクソン19のスキッピングが認められた。 今回用いたmdxマウスの変異はエクソン23内の点変異であるため、エクソン19のスキッピングによってジストロフィン蛋白の発現をみることはできないが、今回の結果は全身投与したAS-oligoは有効に筋細胞の核内に到達し、さらにエクソンスキッピングを誘導し得ることを示している。さらに、このことは生体内においてこの機構を利用し、DMDでみられるout-of-frameの欠失をin-frameの欠失に変換するという治療の可能性を示唆している。
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