ジストロフィン遺伝子の欠失により、mRNA上で欠失している領域の塩基数が3の倍数+1あるいは+2(out-of-frame)であるとDuchenne型筋ジストロフィー症(DMD)となるが、3の倍数(in-frame)であるとより軽症なBecker型筋ジストロフィー症(BMD)となる。申請者は先にジストロフィン遺伝子エクソン19内にスプライシング部位決定に重要な塩基配列であるスプライシング促進配列(SES)が存在し、さらにSESに対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(AS-oligo)によりスプライシングの過程においてエクソン19のスキッピングを誘導し得ることをin vitro、培養細胞およびマウスへの全身投与において明らかにした。このことを臨床に応用すると、DMDの症例の欠失領域に隣接するエクソンをAS-oligoによりmRNA上から消失させ、欠失領域の長さををout-of-frameからin-frameに変換し、表現型を軽症化することが可能である。現在、エクソン20に欠失を有するDMD症例に対してAS-oligoを投与し、エクソン19のスキッピングを誘導することによる治療の臨床応用の準備段階に入っている。今回、このような治療の適応を拡げるために、ジストロフィン遺伝子の欠失好発部位(エクソン44-52)周辺のエクソンにおけるSESを検討した。 in vitroスプライシング系において、ショウジョウバエのdsx遺伝子エクソン3・イントロン3・エクソン4より成るmRNA前駆体は、エクソン4にSES活性を有する塩基配列が付加されることによりイントロン3のスプライシングが誘導される。このことを利用しジストロフィン遺伝子エクソン43、46、53内のSES候補配列の活性を検討した。その結果エクソン43、53においてSES活性を有する塩基配列が同定された。これらのSESに対するAS-oligoによりエクソンスキッピング誘導することが可能であると、スプライシングを制御することによるDMDに対する治療の適応を拡大することが可能である。
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