研究概要 |
1、対象;周産期障害による脳障害を来した症例(脳性麻痺)で、CTあるいはMRIで両側大脳半球に異常所見を認めるか、麻痺が両側に及んでいる症例を対象とした。痙性両麻痺12例(早期産8例、満期産4例)、痙性片麻痺1例(早期産)、アテトーゼ型四肢麻痺4例(早期産1例、満期産3例)の計17例を対象とした。正常対象10例(小児6例、成人4例)を比較のため同様の検討を行った。 2、方法;患者本人およびその保護者より同意を得た上で以下の検査を行った。誘発筋電位(MEP)は短栂指外転筋(APB),上腕二頭筋(BB),前脛骨筋(TA)より導出した。経頭蓋磁気刺激(TMS)は8字型コイルを使用した。刺激部位はAPBとBBに対しては頭皮状の左右の中心部(C3(4))とし、TAに対しては正中中心部(Cz)より4,5cm外側とした。さらに各筋の運動野の位置を検討するため、Czと耳朶(A)を結ぶ線上をCzより1cm間隔でTMSを行った(マッピング)。各刺激点で4回のTMSを行い、MEPの平均潜時、振幅を計測した。 3、結果 1)同側性MEP;刺激同側のMEPは正常対象ではAPBとBBで見られず、TAでは2例のみ認められた。脳性麻痺では高率に同側性MEPがみられた;APBは3例、BBは6例、TAは15例。2)マッピング;最大振幅の得られた部位はAPBとBBで脳性麻痺と正常対象で差はなかった。早期産の痙性両麻痺のTAではその部位が側方に偏位し、手の領域に位置していた。 4、考察;脳性麻痺では下肢筋に対する同側性経路が促通していた。早期産の痙性両麻痺のTAの誘発部位が側方へ偏位したことは、脳室周囲白質軟化症で下肢への錐体路が強く障害されたため、比較的保たれている側脳室から離れた経路が強化されたものと考えた。以上は発生早期の脳障害では可塑性が働くことを示している。
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