研究概要 |
後期補体成分の先天的欠損症は、髄膜炎菌や淋菌などのナイセリア菌属による重症感染症に罹患しやすいことが知られている。後期補体成分の最終成分としてはたらくC9の先天的欠損症は海外では数例しか報告されていないが、日本では最も頻度の高い遺伝性疾患のひとつで、北海道から九州まで頻度に差がなく、およそ1,000人に1人がホモ接合体とされる。本研究協力者である原らは、散発性の髄膜炎菌性髄膜炎症例の半数に後期補体成分欠損症(C9欠損症4例、C7欠損症4例)を見出し、C9欠損症の大多数は健康であるが、一般人口と比較して有意に髄膜炎菌性髄膜炎を発症しやすいことを明らかにした。本研究代表者である吉良らはこのC9欠損症4例の遺伝子解析を行い、全例がエクソン4にあるナンセンス変異(R95X)のホモ接合であることをこれまでに明らかにした。またこの解析において対立遺伝子特異的増幅法(ASPCR)を用いR95X変異を容易に検出する方法を開発した。 本研究では福岡150人および鳥取150人のDNAを用いて、日本人におけるR95X変異の保因者頻度をASPCRにより調べた。その結果、それぞれ10人ずつすなわち15人に1人(6.7%)がR95X変異のヘテロ接合であった。これから推定されるホモ接合体の頻度は、日本人の約1,000人に1人がC9欠損症という血清疫学の頻度にほぼ一致しており、日本人C9欠損症の大部分がR95X変異によることが明らかとなった。 C9欠損症は海外では数例しか報告されておらず、日本人に特異的に多い疾患と考えられている。今後、近隣諸国におけるこの変異の調査により、どのようにしてこれほど高頻度のR95X変異が日本人に広まったのか明らかにされる可能性がある。
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