本研究の目的は天疱瘡抗体によって表皮細胞間の接着構造であるデスモソームの離解メカニズムを細胞生物学的に検討することである。そこで昨年度から本年度にかけて、我々はすでにヒト正常表皮細胞や皮膚有棘細胞癌由来株に天疱瘡抗体を作用させると、20分後にデスモクレイン3がセリンリン酸化され(Aoyama et al.Europian Journal of Immunology 1999.29:2233-2240.)細胞膜から消失し、30時間後にはデスモグレイン3を欠如するデスモソームが形成されるという大変興味深い現象を見いだした(Aoyama et al.Journal of Investigative Dermatology 1999.112:67〜71)。さらに、天疱瘡患者の血清から精製したIgGをヒト正常表皮細胞や皮膚有棘細胞癌由来株に20分作用させたのち細胞を分画し、ウエスタンブロッテイングで活性化されているキナーゼを検討した。天疱瘡抗体で刺激後活性型Srcキナーゼの増加およびチロシンリン酸化蛋白質の増加を認めたため、デスモソーム構成分子と様々なチロシンキナーゼの基質になりうる蛋白質の相互作用を検討した結果、Srcキナーゼの基質であるp120-catがデスモソームに局在しデスモグレイン1および3に結合することを初めて見いだした(Aoyama et al.Journal of Investigative Dermatology revised)。また、尋常性天疱瘡患者および落葉状天疱瘡患者の天疱瘡抗体価をELISA法で測定し、患者の病勢および初期治療との関係を検討した(Aoyama et al.Europian Journal of Dermatology 2000 10:18-21)。今後、抗体価の病原性と細胞内シグナル伝達機構の活性化との関係についてさらに検討したい。
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