研究概要 |
毛包表皮幹細胞の所在を明らかにするために,マウス頬髭毛包を用いて実験を行った。青色光を当てると緑色蛍光を発するタンパク質(GFP)を全身の細胞で発現するトランスジェニックマウス(pCX-EGFP/C57BL/6-N)から毛周期の伸長期にある頬髭毛包を単離し,これを4分割(皮膚に近いほうからP1,P2,P3,P4と呼ぶ)してノントランスジェニックマウス(NTg;C57BL/6-N)の背部皮膚または腎臓皮膜下に移植した。一部の毛包断片にはNTgから単離した毛乳頭を詰めてから移植した。レシピエントを剃毛して蛍光実体顕微鏡下で観察することにより,背部皮膚に移植した毛包組織の生存をモニターできることが確認された。P1,P3,P4の毛包断片は,移植後3〜4週間でGFPの蛍光が消失するするものが多いのに対し,P2断片は4週後でもGFPの強い蛍光を確認できた。組織切片の観察から,P2では移植片の細胞が生残するのみならず,毛包組織特有の基底膜(硝子膜)構造が維持されていることがわかった。また,P2に毛乳頭を詰めて腎臓皮膜下に移植した場合には毛の再生がみられたが,ほかの毛包断片からは毛は再生しなかった。これらの結果から,P2には毛包表皮細胞の供給源があるため長期にわたり移植片由来の細胞が存続し,毛球誘導能のある毛乳頭と組み合わせた場合にはそのシグナルに反応して毛母細胞に分化して毛を新生できるのに対し,それ以外の断片には供給源がないためにターンオーバーやアポトーシスによって毛包表皮細胞が失われ,やがて枯渇してしまうものと考えられる。今後,P2のどの部分に供給源となる細胞(幹細胞)が存在するのか,幹細胞の維持・増殖にどのような条件が必要なのかを詰めていきたい。
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