マウスケラチノサイト細胞株KCMH-1の培養上清中には、線維芽細胞との共生培養系で肥満細胞を増殖させる因子が存在することが知られていた。その活性を中和するウサギ抗体を用いてKCMH-1のcDNAライブラリーからスクリーニングを行い、Leukemia inhibitory factor(LIF)がクローニングされた。中和実験などにより培養上清中の活性のほとんどはLIFであることが判明した。これまでの培養上清での活性の検討により、LIFによる肥満細胞増殖促進活性は線維芽細胞を活性化することによって引き起こされることが考えられる。そこで今回は、LIF刺激により生じる線維芽細胞の活性化について分子レベルで検討することとした。 無刺激あるいは種々の時間LIF刺激した線維芽細胞のmRNAからcDNAを合成し、蛍光色素で標識後、約9千種の遺伝子断片を固着させたDNAチップにハイブリダイズさせ、それぞれの遺伝子の発現量を検出した。その結果いくつかの遺伝子がLIF刺激した線維芽細胞で発現上昇していることが判明した。それらの内、IL-4受容体遺伝子、ホルモン受容体遺伝子などの受容体遺伝子、Rasファミリーの一員であるRAB1遺伝子、さらに種々の転写因子、その他メタロチオネイン1などの遺伝子で特に強い発現増強が認められた。IL-4受容体遺伝子、RAB1遺伝子、メタロチオネイン1遺伝子では、ノーザンブロット法を用いた検討でも、LIF刺激によりmRNAの発現が増強しているのが確認された。 肥満細胞と線維芽細胞との共生培養系において、IL-4を添加することにより肥満細胞の増殖を誘導することがこれまでにわかっている。また、同様の培養系に亜鉛を添加しても肥満細胞増殖が生じる事が判明した。これらのことより、共生培養系におけるLIF刺激による肥満細胞増殖には、それらの分子の発現増強を介する機序が介在している可能性が示唆された。今後更にこれらを詳細に検討する予定である。
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