ラットの顔面洞毛の毛根部に分布する多種多様な神経終末は、生後約2週間で成熟動物に匹敵する神経終末の要素がほぼ観察されるようになることなどを昨年度までに明らかにしたが、本年度はさらに、共焦点レーザー顕微鏡を用いてそれらの立体的形態の成熟過程をも明らかにするとともに、生直後または成熟ラットの洞毛に異常な刺激を与え続けることによって生じる神経終末分布様式の変化を追究した。生後各発達段階の洞毛における各神経終末は、各々の立体的特徴を徐々に成熟させつつ、3次元的に分布領域を広げる様子が明らかになった。幼弱な動物の洞毛を扱う困難性から結果的に今回は抜毛しか検討できなかったが、生直後より異常な感覚入力環境にさらされた幼弱な洞毛における神経分布の発達様式は、特定の神経終末だけが先行して成熟したり、逆に輪走線維の分布の時期が遅れるなど正常とは異なる所見が得られた。一方、成熟ラットにおいては各種神経終末の特徴的な形態の全貌が3次元的に詳細に明らかになるとともに(論文投稿中)、神経終末の無髄軸索部分に細胞鞘を与える終末グリア細胞が中枢の神経膠細胞に類似して非常に特殊な形態を呈して軸索に纏絡していることが初めて明らかとなった。本細胞には長い突起をのばして多数の神経終末を連携するものも見られ、終末グリア細胞の多様性も示唆された。成熟ラットの洞毛に対し、抜毛、剃毛、引っ張る、皮膚を摩擦する、などの操作を約4か月間与え続けると、特にメルケル終末、槍型終末および樹状神経終末の立体的な広がりと分布密度に変化が生じ、個々の終末にも終末グリア細胞を含めて形態変化が確認された。本研究により、生後の感覚入力は、洞毛の知覚神経終末の形態の成熟および維持機構に大きく影響を与えることが明らかとなった。今後、特定の感覚刺激が特定の知覚神経終末の形態をいかに変化させうるかを追究すべく、現在さらに詳細な検索を進めている。
|