臨床用MRI装置を用いてproton MRスペクトロスコピーを測定し、脳内グルコース及び乳酸の代謝物評価を試みる。研究実績は下記のように大別できる。 I)食事による脳内グルコース濃度の評価:グルコースの信号はコリンの信号のとinositolの信号の間にみられ、タウリンの信号と重なる。正常者においては食事後にグルコースの濃度変化に応じて信号の上昇がみられ、1-4mM程度の上昇が認められた。また、低血糖児の測定では同部の信号がきわめて低く、脳内グルコース値の低下に相応する変化かと考えられた。 II)ミトコンドリア脳症の乳酸測定:ミトコンドリア脳症の患児について血流評価と代謝物評価をあわせて行った。ミトコンドリア脳症では血流の低下している部分に一致して乳酸の信号とNAAの著明な低下が認められた。経時的な観察で血流低下の一部は改善し同時に乳酸の信号の低下とNAAの信号の漸増がみとめられたが、血流改善が見られない部分も存在しMRIでは異常信号を呈し乳酸の残存とNAA低下が持続していた。 III)急性期脳梗塞の評価:虚血程度と乳酸の相関が認められたが、拡散強調の信号変化とは必ずしも相関しないことがある。拡散強調画像で判断しがたい虚血の評価に応用できると考えられた。 IV)functional MRS:指のtapping運動によるfunctional MRSを施行した。fMRIを測定し賦活部にROIを設定してMRSを測定した。乳酸信号の上昇はわずかでありノイズと区別しがたいが、NAAの信号に3-5%程度の変化が認められた。BOLD効果と関係ある変化かもしれない。 以上の結果から、グルコースは通常の測定で定量化を施行することは難しいが高血糖や低血糖の場合には注意深く観察すると臨床情報として活用できると考えられた。乳酸は病態の評価にひろく利用でき有用性が高いと考えられた。
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