研究概要 |
1.研究によって得られた新たな知見などの成果 放射線照射による,ヒトがん細胞ミトコンドリアの代謝変化を定量的に解析することを目的とし,ヒト肺癌由来株化細胞A549を用いて,細胞へのTc-99m-hexakis-2-methoxy-isobutyl-isonitrile(MIBI)取り込みの変化を検討した.これまでの検討から,以下の知見を得た.(1)3-9GyのX線照射により,A549細胞は照射直後から2時間後にかけて,MIB1集積が有意に増加した.(2)照射4時間後では,いったん無処置群と同じレベルまで低下した.(3)照射6-8時間後から,統計学的有意差をもって取り込みが再増加を示した.(4)照射12時間後には再びMIBI集積はコントロールと同じレベルに復帰した.また,(5)これらの変化には照射線量への依存性も認められた.これらの所見から,放射線照射後,早期にヒトがん細胞ミトコンドリア代謝は一過性に亢進すること,またその変化は照射直後から生じていることが示唆された. 2.今後の研究の展開に関する計画 次年度では,まず,このA549細胞の照射後の細胞周期の分布の変化をみることにより,上記のMIBI集積の増加がどの細胞周期で生じているのかを確認する.また,電子顕微鏡を用いて,照射したヒトがん細胞ミトコンドリアの形態学的変化と上記の細胞のMIBI取り込みの変化の関連についても検討する.ついで,その他のヒトがん細胞株にてもMIBI集積の変化を検討し,細胞の種類によりMIBI取り込みに差異がみられた場合,種々の細胞特性(細胞周期,照射感受性,癌関連遺伝子など)との関連を検討することより,MIBI集積増加の詳細な機序の解明への道筋が示されるものと考えられる.
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