施設入所中の不眠高齢者を対象に、時間調整をした半身浴による深部体温操作法を用いて睡眠維持障害への治療効果を検討した。 対象は、原発性不眠を有する非痴呆老年者8名(M/F=4/4、72.2歳)である。研究期間は、基準睡眠状態(無入浴)の評価期間(3日間)の後に、日中入浴(2日間、1330〜1400時)及び夜間入浴期間(2日間、1930〜2000時)をrandomized crossover designで配置した。全研究期間を通じて、睡眠(アクチグラフ)及び深部体温を1分間隔で連続測定した。入浴は前胸部までの半身浴(40℃〜40.5℃温水)を15分〜20分行った。 日中及び夜間入浴後には、平均0.75℃(0.2℃〜1.1℃)の一過性深部体温上昇が生じ、入浴30分後には熱放散・深部体温下降に転じた。2000〜2200時(就床2100時)までの深部体温低下度の大きさと入眠潜時の短縮との間には有意な正の相関が認められた(r=0.6 p=0.03)。すなわち、夜間入浴後の急速な熱放散が入眠を有意に促すことが明らかになった。また、日中入浴、夜間入浴ともに、無入浴期間に比較して、中途覚醒回数の有意な減少(p<0.02)及び総中途覚醒時間の減少傾向(p=0.02、kruskal-wallis)が認められた。ただし、日中入浴による睡眠維持障害の改善は主として睡眠前半1/3で認められたのに対して、夜間入浴のそれは全睡眠時間で持続した。夜間入浴時の夜間深部体温レベルは睡眠前半2/3では日中入浴時のそれより低下していたが、睡眠後半1/3では両入浴条件間で差がなかった。 本研究から、半身浴を利用した深部体温操作が、高齢者の入眠潜時の短縮と睡眠維持障害の改善に有効であることが示唆された。この前者の作用は主に副交感刺激・熱放散・徐波睡眠圧上昇によるものと推定されたが、後者の作用機序に関しては不明であり、今後の検討課題である。
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